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September 08, 2004

旅のつれづれに

大学1年だったか2年だったかの夏休みに、当時はまだ走っていた夜行急行「能登」号に乗って、金沢から輪島を旅した事があります。
この時は高校時代からの親友と出かけたのですが、その間の思い出は何故か記憶の彼方に飛んでしまったのに、反対に忘れられない思い出があります。
それは当時流行りかけていた、大藪春彦の「蘇る金狼」と云う小説に出会った事です。
今はこの手の分野の小説は、どのようなカテゴリーに分類されるのかは分かりませんが、当時はバイオレンスが非常な男のかっこよさを演出したものと云う事で、大きなムーブメントを起こしたほどです。

私は輪島の駅前に近い小さな書店で、帰りの夜行列車の暇つぶしのためにこの本を買いました。
それまで特段興味があった訳ではありませんが、この頃は角川書店が最も元気な頃で、横溝正史や星新一などを一生懸命メジャーに押し上げていたのもこの前後だったと思います。

蘇る金狼....
読み始めたら途端にはまりました。
暗い野望を持ち、目的にためには手段を選ばない主人公が、昼間は一向に目立たないサラリーマンで、鍛えに鍛えた鋼のような体と知能を使ってのし上がって行く様は、まだ若かった私の心を強烈に揺さぶりました。
金沢駅で上り上野行きの夜行列車に乗ってから、本当に一睡もせずにほの暗い客車の中で読みふけりました。
通り過ぎる踏切の音、ガタンガタンと規則正しく響くレールの音にも邪魔される事なく、夜明けの早い夏でありながらも明け切らぬ高崎駅に降り立つまでの8時間ほどを、一気に駆け抜けました。
本から目が離せない。
高崎駅の階段の登り降りさえも、本から目を離させないと云う、私にとって大きな衝撃を受けた本でした。

大藪春彦の書く小説は、文学としては2流かもしれませんが、その構成とストーリー性は、今までの日本大衆文学の流れにはなかったものだと思っています。
その後、松田優作主演で映画化され、イメージが固定されたものの、原作を全く越える事ができなかったのは当然かもしれません。
返って原作を読まない人に、薄っぺらな悪い印象を与えた事のほうが問題かもしれません。

私は、仕事やプライベートで遠くに出かける事が多いから、どこでも必ず読むものを携えて行きます。
しかし、以来この本ほど強烈にのめり込んだ本はありません。
学校を出てから、好きな本しか読まなくなりましたが(当たり前?)、何か強い力で引き込まれるような感じを持ったのは、後にも先にもこの一度だけでした。

夜を走り続ける薄暗い客車の中で、この主人公のような人生を送りたいと考えていたのかもしれません。

 #それが、鋼どころか、今では腹の出た、ただのおっちゃんが、なれの果てであります(笑)

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Comments

いわゆる普通の小説はあまり読みません.その代わり,結婚してからずっと日経新聞の朝刊と夕刊の小説を楽しみにしています.「失楽園」「発熱」などの名作が出ていますね.

私的ハードボイルド小説といえば,吉川英治の「宮本武蔵」でしょうか.あと,中学1年生のときにのめりこんで,妻との出会いのきっかけになったトーマス・マンの「トニオ・クレエゲル」(邦訳,岩波文庫版)も(当時の文化背景を考えると) かなりギラギラしたもののある小説だと思っています.

あまり読み込めていないですが,ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」 (邦訳,早川文庫版) はかっこよかったかも.サイバースペースへジャックインする感覚は今も変わりません.

あと,1980年代末期の日本のバブルとシンクロした1980 年代前半の米国のヘロイン /コカイン文化を描いた Bret Easton Ellis の "Less Than Zero" (これも日本語で読んでいたはず) は衝撃的でした.これが映画化された時に Simon & Garfunkel の "A Hazy Shade of Winter" をBanglesがカバーしたバージョンは強烈でした.しかし,それ以上に S&G のオリジナルは印象的です(これも偶然ですが小学校6年生の時に聞いています).

なんというか,ませたガキでしたね :-)

73 de Kenji JJ1BDX/3

Posted by: Kenji JJ1BDX/3 | September 09, 2004 at 13:58

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